コンサートのこと

先日「まるで六文銭のように」のコンサートがあり
和歌山へ。
その日はあいのくの天候で近付きつつある台風に
向かって飛行機で一路南紀白浜へ。
空港から車で約1時間海岸沿いを南へ下り
串本よりさらに10分ほどの古座川という所へ。

そこは幼い頃毎夏兄や従姉妹たちと山や川で遊んだ
父の故郷とよく似ていてそれだけで充分私の心は
満たされた。
熱い思いを秘めた地元の男女7名の方が中心となって
古座川という愛する町の為に始めたという手作りの
コンサートに招いていただいた。
それは記念すべき10回目でもあった。

その日の宿までの道すがらも仕事で来ている事を
忘れてしまうくらいあちこち案内して下さり
台風にも拘わらず海が荒れていないことを
とても残念がっていらした。
どうやら荒れ狂う海を見せたかったらしい。

子供の頃、大きな台風が来て実家の屋根が
吹き飛ばされそうになった。
二階の居間に家財道具を集めその真ん中で
「ヒューゴオー」という音に耳をふさぐ。
何時頃だったのか覚えてないが停電で
薄暗く私一人恐ろしくて震えていた事を思い出す。
それでもゲンキンなものでおさまりそうになると
合羽をはおり長靴をはいて両親が止めるのも聞かず
外へ飛び出し空を仰ぎ見風を受け一気に去って行く
台風を不謹慎ながら楽しんでいた事を記憶している。

台風で荒れた海を見せたいと思って下さったのは
そんな気持ちとどこか共通するものがあるのかもと
一人車の後ろの座席でニヤリとしていた。

深い緑と野の花や鳥の声、四国の四万十川にも
匹敵するという綺麗な川の気に癒され
人々の温かい気持ちに触れ何かいつもと違う
心の動きを感じた。

リハーサルで二人のギターの音や自分の声がどれ位
聞こえるかを小室さんのリードでチェックする。
手作りのステージは広すぎず、なるべくくっついて
歌いたい私達にとっては好都合でもある。
耳で聞こえてくる音を確認し明日の本番へ。

翌日は素晴らしいお天気で気持ちの良い朝を迎えた。
木造の円形のホールはとても良い香りがした。

オープニングは小室さんが一曲、恒平ちゃんが二曲目
そして私の番だ。
いつもなら口から心臓が飛び出しそうになるのに
そうはなっていない。
いつもの様にギターの音や歌声は聞こえている筈なのに何かが違う。
身体の奥の方で何もかもが響いているのだ。
もしかしたらそれまでは聞こえていると思い込んでいただけなのかもしれない。
歌うことで何かが湧き出てきた。
楽しかった。楽しい事が嬉しかった。

今夜は浮かれて飲み過ぎないようにしよう
身体もあまり動かさず静かに休もうと思った。
あの時感じた何かが逃げてしまいそうな気がしたから。
翌日京都でのコンサートまで静かにそのまま…
お願い居てね!

私の願いを聞き入れてくれたかどうかはわからないが
その日も楽しく歌うことができた。
隣にいる小室さんの歌が
恒平ちゃんの歌が
ずんずん心に響いて震えてしまった。
以来私はより二人の大ファンになってしまった!!

いつも側にいてくれる二人には当然の事として
今回のコンサートに関わって下さった
京都、古座川のすべての方々と美しい自然に
心から感謝をしたい。
誰かが私に何かを気付かせてくれたとしたら
やはり頭を垂れるしかないと思う。